Reviews

 

 最近、モダンピアノに古典調律を施した上でおこなう演奏会や、録音する音盤が増えてきた。よい傾向だ。(中略)ひとまず、CD冒頭のハ長調前奏曲と次々曲の嬰ハ長調前奏曲とを比べてみよう。長3度の緊張度が違うこと、その緊張のかかり具合の差を利用してバッハが曲作りをしていることが分かる。次にドビュッシーの作品世界が平均律と呼応していることも確認してほしい。それらに音盤コンセプトが集約されている。
 

谷夏樹 『音楽現代』(芸術現代社)2022年3月号

 「古典調律」によるバッハの《平均律》第1巻ハ長調の前奏曲は非常にすっきりとした響き。シューバルト(1806年)が「無垢でシンプル、ナイーヴ、子供の言葉」と述べたハ長調の性格がよく分かるし、ボーナス・トラックの同じ曲の録音と比べてもその違いは明らかだ。こうしたことは続いて収録されているバッハの《平均律》第1巻の変ホ短調、嬰ハ長調も同様。シューマンの《幻想曲》ハ長調では和音の色合いが際立つ。解釈も非常によく練り上げられていてとても聴かせる。ベルクのソナタやドビュッシーの《前奏曲集》第1巻の6曲は「平均律」。古典調律に続いて聴くとその違いがよく分かって大変興味深いし、ベルクなどはなかなかの熱演だ。
 現代のピアノのファンにぜひともお聴きいただきたいアルバムだ。

 

那須田務 『レコード芸術』(音楽之友社)2022年3月号

 このCDはいわゆる「古典調律」と言われるピタゴラス音律から始まりウェル・テンペラメントまでの調律とその後の「平均律」で調律された演奏を一つにまとめたユニークな内容である。まず古典調律でバッハの《平均律クラヴィーア曲集》第1巻から3曲が演奏される。ハ長調・変ホ短調・嬰ハ長調と調号が極端に変わる順に演奏され、確かに自然な明るさ、曇った薄暗さ、張りのある華麗さ、等々の響きの差異は曲想にもよるが変化が強い。後藤の演奏自体は全楽章ムラのない引き締まった好演である(中略)。
 平均律ではベルクのソナタ作品1で鋭いタッチと各部分の弾き分けが鮮やかで曲の表現性が高められている。ドビュッシーの《前奏曲集》第1巻からの6曲の抜粋では、響き自体の独自性と解放性、そして色彩性が自由に響きわたっている。

 

草野次郎 『レコード芸術』(音楽之友社)2022年3月号

構想5年、調律の違いが聴けるユニークなCDだ。音質はナチュラル、確かに古典調律をほどこしたピアノは、中音域の響きが豊かで色彩的かつ鮮やかだ。解説の絵入りブックレットも分かりやすい。
 

林正儀 『オーディオ アクセサリー』(音元出版)2022年SPRING

 

 「後藤さんのシューマン演奏のすばらしさは、この音の言葉への深い熟慮にあり、その演奏は作品への深い共感に満ちている。この共感がなければ、音やフレーズ相互の結びつきは失われ、きわめて散漫な演奏になり、機械的な音の羅列に堕してしまう。しかし、後藤さんは、深くシューマンの音に耳を澄まし、作品を透徹している内なる言葉を引き出し、ご自身の言葉でシューマンを語りつくす。
 後藤さんはピアニストであるとともに、すぐれたシューマン研究者でもある。東京藝術大学でシューマン研究によって学位を取得された。後藤さんの演奏する《ダヴィッド同盟舞曲集》や《クライスレリアーナ》を聴くと、その音楽にはシューマンの顔と、後藤さんの眼差しを感じる。」

 

西原稔   『Inspirations 後藤友香理 シューマン・ピアノアルバム』ライナーノーツより

 クララの初期作品《音楽の夜会》の中の〈夜想曲〉を冒頭に奏でるが、これは素晴らしい逸品の秀演で、たちまち浅からぬ好印象を招く。つづく〈マズルカ〉が、主題音型上の一致から、次のシューマン作品《ダヴィッド同盟舞曲集》第1曲と結びつくのもまた、見事なアイデアだと言えよう。その《ダヴィッド同盟舞曲集》は、曲想をよく捉えた、デビュー盤としては申しぶんのない域に達した出来映えの演奏だと評せる。18に及ぶ小品それぞれの微妙に相異なる性格をこまやかに表現しおおせている。《クライスレリアーナ》も同様に、含まれる8曲それぞれに流れる気質をよく踏まえた好演。
 

濱田慈郎 『レコード芸術』(音楽の友社)2017年6月号

 《ダヴィッド同盟舞曲集》は軽やかなタッチと切れの良いリズム、巧みな響きの処理によって若い人らしい爽やかなリリシズムの横溢する演奏に仕上がっている。
 

那須田務 『レコード芸術』(音楽の友社)2017年6月号

 「クライスレリアーナ」では、後藤の粒立ちのよい明晰な演奏が曖昧な幻想とは一線を画し、作曲者から直接語り掛けられたような身近さと、気分の昂揚を感じる。
 

保延裕史 『音楽現代』(芸術現代社)2017年6月号