お聴きいただく古典調律について
今回使った古典調律は、「キルンベルガー第2技法の改変版」です。
「キルンベルガー第2技法」は、ウェル・テンペラメントの一つであり、J.S.バッハの弟子で音楽理論家でもあったヨハン・フィリップ・キルンベルガー(Johann Philipp Kirnberger, 1721-1783)に由来します。当時の作曲家に人気があり、ベートーヴェンが好んで使用していたとも言われています。技術的には、Aを挟んで5度圏サークル上下隣接のA-EとA-Dの間で、シントニック・コンマ22セントのずれを2等分して配置してあります(図1)。結果、A-E、A-Dの二つの5度の響きは犠牲になりますが、C-E、G-H、D-Fisというハ長調の主調、属調、さらにその属調において純正の長3度が得られるという利点があり、他のウェル・テンペラメントと比べて平均律との違いをより明確に感じられるのではないかと予想し、この音律を選択しました。
しかし実際に演奏してみたところ、D音の平均律との乖離(9セント)が大きく、演奏に差支えがあったため、A-Dに寄せてあった1/2シントニック・コンマのさらに半分(1/4シントニック・コンマ)をG-Dの5度にも分散して、「キルンベルガー第2技法の改変版」として使用しました(図2)。
鍵盤楽器奏者が調律もこなしていたかつての古典音楽の現場では、奏者が豊富な音律の知識を駆使して、今回のように「その場に合わせた」音律で演奏することもよくあったと考えられます。そう考えると、「古典調律(特にウェル・テンペラメント)」の種類には、小さな亜流もカウントに入れれば何百ものバリエーションがあるということですね。
古典調律と平均律を聴き比べてみよう
その1・和音を聴いてみよう
ハ長調
変ニ長調
ニ長調
古典調律
平均律
変ホ長調
ホ長調
ヘ長調
変ト長調
ト長調
変イ長調
イ長調
変ロ長調
ロ長調
その2・曲を聴いてみよう
★全曲をお聴きいただくにはCDをご購入いただくか、
Spotifyからお聴きください
●J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻第8番より前奏曲
古典調律による演奏
平均律による演奏
●J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻第3番より前奏曲
古典調律による演奏
平均律による演奏
●R.シューマン:《幻想曲 ハ長調》作品17より第3楽章
古典調律による演奏
平均律による演奏
●C.ドビュッシー:前奏曲集第1集より《デルフの舞姫》
古典調律による演奏
平均律による演奏
●C.ドビュッシー:前奏曲集第1集より《沈める寺》
古典調律による演奏
平均律による演奏
〇 純正律のピアノでの演奏